イルゼ アイヒンガー『縛られた男』真道 杉/訳 田中 まり/訳 真道

drawer2005-12-27

p18 川はみな海へと押し寄せて行く。川はたとえ岸辺からは見えなくても海に続いている。フォルムというものは安心という感情からは決して生まれるものではない。フォルムはいつでも終末に向かい合ったときに生まれるものだ。それは今日、我々の境界が痛切にも明瞭に見えてくるときに、終末に真っ向から向かい合うときに、慰めになることがある。そして我々の励ましとなるだろう。

p43「縛られた男」
飛ぶという行為は非常に特殊な縛(いまし)めのなかだけに許されているものだと。

p93「夜の天使」
十二月の明るい日々。それは自分自身の輝きを覗きこんでしまったためにますます明るく、その青白さにいらだちながらも、長い夜に養われるという約束のゆえに短さを受け入れる。やさしい心で自らを耐え抜くには十分に強く、十分に強いがゆえに十分に弱く、穏やかだ。こういう日々は漆黒(しっこく)のうちから輝きだす。そうでなくてはならない。

p97 でも私はそのとき、もう大きくなっていたので、天使を長く信じすぎたのだとすんなり認められなかった。だまされていたとすれば、それは長すぎた。

p113「鏡物語」
我慢して。初夏じゃないの。まだ朝が長いこと夜へと伸びている。間に合うわ。